「リスキリング・労働移動・構造的な賃上げの方向性」についての資料を公表
「リスキリング・労働移動・構造的な賃上げの方向性」について議論がなされ、内閣官房HPから「第14回新しい資本主義実現会議」の資料が公表されました。今回の議事は、「リスキリング・労働移動・構造的な賃上げの方向性」です。
この日の議論を踏まえ、議長である岸田総理が次のようにコメントしています。
「賃上げは、新しい資本主義の最重要課題。物価上昇を超える賃上げを目指す。さらに、その先に、構造的な賃上げを実現し、同じ職務であるにも関わらず、日本企業と海外企業の間に存在する賃金格差の解消を目指す。
働き方は大きく変わってきている。職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自分の意思でリスキリングを行い、職務を選択できる制度に移行していくことが重要。
労働者が自らの選択によって労働移動できるようにしていくことが、日本企業と日本経済の更なる成長のためにも急務。
国の学び直し支援策については、個人への直接支援中心に見直す。また、海外と同様に、在職期間中のリスキリングの習慣の形成を図る。
その際の支援については、キャリアコンサルタントが、求人・求職に関する幅広い現場情報に基づき助言が行えるよう、官民の持つ情報の共有化を進める。
ハローワークについても、コンサルティング機能の強化を図る。
さらに、労働移動を円滑化するため、自己都合で離職した場合の失業給付の在り方の見直しを行う。また、非正規労働者の賃金を上げるため、同一労働同一賃金制の徹底した施行を図る。
最後に、『令和5年6月までに、労働市場改革の指針を取りまとめますので、関係大臣及び委員の皆様方の御協力をお願い申し上げます。』」として、コメントを締めくくりました。
以下に公表された資料の概要を抜粋してご紹介します。
【内外賃金格差】
■1人当たり実質賃金の伸び率の低さ
・先進国の1人あたり実質賃金の推移をみると、1991年から2021年にかけて、米国は1.52倍、英国は1.51倍、フランスとドイツは1.34倍に上昇しているのに対して、日本は1.05倍にとどまる。
■職務別の内外賃金格差
・我が国と他の先進国等では、同じ職務であるにもかかわらず、著しい賃金差が存在し、特に高いスキルが要求される分野(IT、データアナリティクス、プロジェクトマネジメント、営業/マーケティング、技術研究、経営・企画等)では、その差が著しい。
・日本企業と海外企業との賃金格差が大きいため、職務毎の賃金格差解消が不可避。ポストコロナの人材不足の中で、日本企業から人材が奪われつつある危機的状況。
・年功賃金での対応は難しく、この賃金格差を無くすため、雇用制度の見直しが求められている。
■スキル差と対比した賃金差
・同じ国の中でも、他の先進国においては職務に求められるスキルに応じた賃金差がある。例えば、IT、データアナリティクス、プロジェクトマネジメント、技術研究といった高いスキルが要求される職種は高い賃金を獲得できている。
・これに対し、日本企業は、獲得したスキルに応じた賃金差が小さく、スキルの高い人材が報われにくい制度となっている。
【職務給(ジョブ型雇用)】
■従来の日本のメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用(職務給)の違い
・従来の我が国のメンバーシップ型の雇用制度においては、採用は新卒一括採用中心、異動は従業員の意向ではなく会社主導。企業から与えられた仕事を頑張るのが従業員であり、将来に向けたリスキリングが生きるかどうかは人事異動次第。構造的な賃上げの基礎となる従業員の意思による自律的なキャリア形成が行われにくいシステム。
・個々の職務に応じて必要となるスキルを設定し、スキルギャップの克服に向けて、従業員が上司と相談をしつつ、自ら職務やリスキリングの内容を選択していく制度に移行する必要。
■日本企業のジョブ型雇用(職務給)の導入見込み
・日本企業にアンケート調査すると、今後3~5年のうちに、管理職層を含めれば何らかの形でジョブ型への移行を検討する状況ではあるが、ジョブ型と「言い切っている」企業は管理職層で15%、非管理職層で8%にとどまっている。
■日本企業がジョブ型雇用(職務給)を導入する理由
・日本企業が、職務給(ジョブ型)への転換を考えざるを得ない理由は、グローバル市場での競争の中で、人材を確保するために必要と考えているところにある。
■日本型の職務給(ジョブ型雇用)
・職務給(ジョブ型雇用)の導入にあたっては、個々の企業特性に応じた導入の在り方があり、個々の企業に合った職務給(ジョブ型雇用)の導入方法を類型化して示すことが必要。
・具体的には、企業によっては、ジョブ型雇用(職務給)を一度にではなく、順次導入する。あるいは、その適用に当たっても、スキルだけではなく、個々人のパフォーマンスや行動の適格性を勘案するといった導入方法を類型化してモデルを示し、導入しやすくすることが必要。
■米国AT&Tにおける人事制度改革とリスキリングの取組①
・米国企業のAT&Tは、デジタル化などによる旧来事業の破壊的変化に対応して、大規模なリスキリングの取組を推進し、世界的で最も有名なモデルケースとなった。
①AT&Tの取組
・米国最大の通信事業者であったAT&Tは、ハードからソフトへ、アナログからデジタルへ、固定回線から移動体通信(携帯電話)へ、製品からソリューションへなど、事業環境を巡る破壊的な変化に接し、世界的に最大と言われるリスキリングプロジェクトを2013年から実施(「Workforce2020」)。
・具体的には、2017年から累計で830万時間と9億4,400万ドル(1,200億円)を投資。現在も、年間1万人以上の社員がリスキリングを受ける。
②職務(ジョブ)の整理・統合(コンソリデーション)
・リスキリングの取組にあたっては、職務(ジョブ)の役割を整理することが必要。将来の職務像を定義することによって初めて、リスキリングのために必要となる、労働者の現在のスキルと当該職務に必要となるスキルの差(スキルギャップ)や昇進ルールを示すことができる。
・リスキリングを開始する2013年以前は、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)の内容は、各個人毎でバラバラだった。このため、労働者が他の職務に昇進するためにどのようなスキルが必要となるかを比較・検討することができなかった。このため、類似の業務を行う労働者について、共通するスキルを括りだして、スキルやジョブ同士の関係を整理・統合(コンソリデーション)した。それと会社の事業変革の方向性を照らし合わせることで、ジョブを再整理(250類型→80類型)し、労働者にとって将来必要となるであろうスキル(フューチャー・レディ・スキル)を示した。
・リスキリングの内容も、この再整理されたジョブの将来像(フューチャー・レディ・スキル)に従って決定されており、社内昇進の基準にも、社外の外部労働市場から人材を募集する際の手段としても用いられている。社外労働市場から経験者採用を行う場合には、社外に当該ジョブに必要とされるスキルを社内同様に公開している。
③経営陣のコミットメント
・リスキリングは、終わりのない取組。継続的な学びの文化を作ることに経営陣のコミットメントが必要。
・なお、リスキリングを通じて労働者が得られるスキルは、社内昇進(内部労働市場)だけでなく、外部労働市場でも通用。このため、自社から他社に労働者が転職することも起こり得る。ただし、AT&Tではリスキリング強化による離職率の上昇は見られていない。他方で、リスキリングプログラムの選択肢を充実することで、(給与面で他企業に劣後していても)自分を育てる機会を得られるとして、外部労働市場から人材を惹きつけ、優秀な人材の採用を実現できた。
④リスキリングの内容
・リスキリングの内容については、それを修了した労働者が活躍の機会を得られることを経営陣として示さなければならない。各ポストの将来の必要数や将来像を労働者に示し(銅線技術職はどの程度減少し、光ファイバー技術職はどの程度増加するかなど)、リスキリングへのモチベーションを与える。リスキリングするかどうかや、学ぶ分野などは、上司と相談した上で、労働者自身が決定する。社内で希望するポストの関係者とコミュニケーションする仕組みや、上司によるサポート、労働者への情報提供などを通じて支援する。
・今後事業拡大が見込まれるデータサイエンスやソリューション事業分野では、スキルの取得はOff-JTが中心。大学院やオンライン研修等の外部機関と連携した教育も重視。過去5年間で1万人の労働者が、外部機関が学習する際の学費の支援を実施(年平均1500万ドル(約19億5千万円))。労働者はこれらの機会を活用し、コンピューターサイエンスやMBAなどの修士号を取得。
・近年ではミニ学位(Nano Degree:「履修単位毎」に、その科目のスキルを修了していることについて大学やオンライン研修企業が証明を付与し、修了生の履歴書に記載可能とする仕組み)を取得する者も増加。
・内部研修も外部機関での学位取得も、いずれもその労働者のスキルの証明書の発行が重要。その証明書は、外部機関に発行させ、他社においても有効性を確保することが大切。
詳しくは下記参照先をご覧ください。