【フリーランス・事業者間取引適正化等法-説明資料とQ&Aなどを公表】
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」が、令和5年5月12日に公布されました。この法律は、特定受託事業者との取引を適正化することを目的としており、フリーランスが受託業務に安定的に従事できる環境を整備するための新しい法律です。施行は「公布の日から起算して1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日」からとなります。この法律に関する情報は、専用のウェブページに掲載されており、Q&Aや説明資料が公開されました。
■本法律の趣旨・概要等
【趣旨】
我が国における働き方の多様化の進展に鑑み、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、特定受託事業者に係る取引の適正化及び特定受託業務従事者の就業環境の整備を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的として、特定受託事業者に業務委託をする事業者について、特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示を義務付ける等の措置を講ずる。
【概要】
1.対象となる当事者・取引の定義
(1)「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないものをいう。[第2条第1項]
(2)「特定受託業務従事者」とは、特定受託事業者である個人及び特定受託事業者である法人の代表者をいう。[第2条第2項]
(3)「業務委託」とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託することをいう。[第2条第3項]
(4)「特定業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者であって、従業員を使用するものをいう。[第2条第6項]
※「従業員」には、短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含まない。
2.特定受託事業者に係る取引の適正化
特定業務委託事業者は、
(1)特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額等を書面又は電磁的方法により明示しなければならないものとする。第3条
※従業員を使用していない事業者が特定受託事業者に対し業務委託を行うときについても同様とする。
(2)特定受託事業者の給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定し、支払わなければならないものとする。(再委託の場合には、発注元から支払いを受ける期日から30日以内)第4条
(3)特定受託事業者との業務委託(政令で定める期間以上のもの)に関し、①~⑤の行為をしてはならないものとし、⑥・⑦の行為によって特定受託事業者の利益を不当に害してはならないものとする。第5条
①特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
②特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
③特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
④通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑤正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
⑥自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
⑦特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること
3.特定受託業務従事者の就業環境の整備
特定業務委託事業者は、
(1)広告等により募集情報を提供するときは、虚偽の表示等をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければならないものとする。第12条
(2)特定受託事業者が育児介護等と両立して業務委託(政令で定める期間以上のもの。以下「継続的業務委託」)に係る業務を行えるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければならないものとする。第13条
(3)特定受託業務従事者に対するハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置を講じなければならないものとする。第14条
(4)継続的業務委託を中途解除する場合等には、原則として、中途解除日等の30日前までに特定受託事業者に対し予告しなければならないものとする。第16条
4.違反した場合等の対応
公正取引委員会、中小企業庁長官又は厚生労働大臣は、特定業務委託事業者等に対し、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができるものとする。第8条、第9条、第11条、第18~第20条、第22条
※命令違反及び検査拒否等に対し、50万円以下の罰金に処する。法人両罰規定あり。第24条、第25条
5.国が行う相談対応等の取組
国は、特定受託事業者に係る取引の適正化及び特定受託業務従事者の就業環境の整備に資するよう、相談対応などの必要な体制の整備等の措置を講ずるものとする。[第21条]
【施行期日】
公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日
■本法律の趣旨・目的
【背景】
〇近年、働き方の多様化が進展し、フリーランスという働き方が普及。特に、デジタル社会の進展に伴う新しい働き方の普及(いわゆるギグワーカー、クラウドワーカー等)。
〇フリーランスを含む多様な働き方を、それぞれのニーズに応じて柔軟に選択できる環境を整備することが重要となっている。
〇一方で、実態調査やフリーランス・トラブル110番などにおいて、フリーランスが取引先との関係で様々な問題・トラブルを経験していることが顕著になる。
<参考>
•実態調査(令和3年内閣官房ほか)では、フリーランスの約4割が報酬不払い、支払遅延などのトラブルを経験。
また、フリーランスの約4割が記載の不十分な発注書しか受け取っていないか、そもそも発注書を受領していない。
•フリーランス・トラブル110番では、報酬の支払いに関する相談が多く寄せられているほか、ハラスメントなど就業環境に関する相談も寄せられている。
【問題の要因】
〇一人の個人として業務委託を受けるフリーランスと、組織たる発注事業者との間には、交渉力や情報収集力の格差が生じやすいことがある。
〇例えば、①従業員がいない受注事業者は時間等の制約から事業規模が小さく特定の発注事業者に依存することとなりやすい、②発注事業者の指定に沿った業務の完了まで報酬が支払われないことが多い、といった事情があり、発注事業者が報酬額等の取引条件を主導的立場で決定しやすくなる等の形で現れ得る。
⇒「個人」たる受注事業者は「組織」たる発注事業者から業務委託を受ける場合において、取引上、弱い立場に置かれやすい特性がある。
【本法律での対応】
〇事業者間の業務委託における「個人」と「組織」の間における交渉力や情報収集力の格差、それに伴う「個人」たる受注事業者の取引上の弱い立場に着目し、発注事業者とフリーランスの業務委託に係る取引全般に妥当する、業種横断的に共通する最低限の規律を設ける。
〇それによって、フリーランスに係る①取引の適正化、②就業環境の整備を図る。
【本法律の対象①】
〇本法律は、(特定)業務委託事業者と特定受託事業者との間の「業務委託」に係る取引に適用される。
〇「業務委託」とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託することをいい、委託とは、物品・情報成果物・役務の仕様・内容を指定してその製造や作成・提供を依頼することをいう。
〇つまり、事業者間(BtoB)における委託取引が対象であり、下の図の赤い矢印の取引が本法律の対象となる。
(図)一人のカメラマンが様々な仕事を行う場合
【本法律の対象②】
〇本法律の適用において、従業員の使用の有無は、組織としての実態の有無を判断する基準となるもの。
〇組織としての実態を備えているというためには、ある程度の継続的な雇用関係が前提となることに鑑み、「従業員」には、短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含まないこととしている。
⇒ 一時的に労働者を雇用していたとしても、「従業員を使用しない」ものとして扱われる。
〇具体的には、「週所定労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者」を「従業員」とすることを想定。
【本法律の対象者と規制内容の概要】
〇個人たる受注事業者(従業員なし)と組織たる発注事業者(従業員あり)の間で交渉力・情報収集力の格差があり、「個人」たる受注事業者が取引上の弱い立場にあることを踏まえ、特定業務委託事業者(従業員あり)に対して期日における報酬支払、募集情報の的確表示、ハラスメント対策の義務を課す。
〇加えて、継続的に発注する場合は、発注者への依存が高まりやすいことや取引継続の期待形成が生じること等から、受領拒否等の禁止行為、育児介護等の配慮、中途解除等の予告に関する規制を設ける。
〇組織対個人の関係になくとも、取引条件の明示は当事者の認識の相違を減らしてトラブルの未然防止に資し、発注者と受注者双方に利益があることから、個人に業務委託をする者は、従業員の有無を問わず、業務委託事業者として書面交付に関する規制を設ける。
【取引条件の明示義務(3条)】
〇業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法により明示しなければならない。(3条1項)
※その他の事項⇒受託・委託者の名称、業務委託をした日、給付の提供場所、給付の期日などを想定。
〇(「直ちに」の例外)これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとする。この場合に、業務委託事業者は、当該事項の内容が定められた後、直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により明示しなければならない。(3条1項ただし書)
【期日における報酬支払義務(4条)】
〇特定業務委託事業者は、検査をするかどうかを問わず、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を定めてそれまでに支払わなければならない(4条1項・5項)
〇支払期日を定めなかった場合などには、次のように支払期日が法定される。(4条2項)
①当事者間で支払期日を定めなかったとき⇒物品等を実際に受領した日
②物品等を受領した日から起算して60日を超えて定めたとき⇒受領した日から起算して60日を経過した日の前日
〇(再委託の例外)ただし、元委託者から受けた業務の全部又は一部を、特定業務委託事業者が特定受託事業者に再委託をし、かつ、必要事項を明示した場合、再委託に係る報酬の支払期日は、元委託支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で定めることができる。(4条3項)
【特定業務委託事業者の遵守事項(5条)①】
〇特定受託事業者との業務委託(政令で定める期間以上のもの(※))に関し、以下①~⑤の行為(1項1~5号)をしてはならない。
(※)更新により政令で定める期間以上行うこととなるものも含む。
【特定業務委託事業者の遵守事項(5条)②】
〇特定受託事業者との業務委託(政令で定める期間以上のもの(※))に関し、以下①~②の行為(2項1~2号)によって特定受託事業者の利益を不当に害してはならない。
(※)更新により政令で定める期間以上行うこととなるものも含む。
【募集情報の的確表示義務(12条)】
〇広告等に掲載された募集情報と実際の取引条件が異なることにより、特定業務委託事業者と特定受託事業者との間で取引条件に関するトラブルが生じたり、特定受託事業者がより希望に沿った別の取引をする機会を失ってしまうのを防ぐことを目的とする規定。
〇特定業務委託事業者は、広告等(※1)により、特定受託事業者の募集情報(※2)を提供するときは、当該情報について、
・虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならず、(12条1項)
・正確かつ最新の内容に保たなければならない。(12条2項)
(※1)新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法
(※2)業務の内容その他の就業に関する事項として政令で定める事項に係るものに限る。政令で定める事項として、「委託者の情報に関する事項」「報酬に関する事項」「給付の場所や期間・時期に関する事項」等を想定。
【育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(13条)】
〇特定受託事業者の多様な希望や働き方に応じて、特定業務委託事業者が柔軟に配慮を行うことにより、特定受託事業者が、育児介護等(※1)と両立しながら、その有する能力を発揮しつつ業務を継続できる環境を整備することを目的とする規定。
〇特定業務委託事業者は、継続的業務委託(※2)について、特定受託事業者からの申出に応じて(※3)、特定受託事業者が育児介護等(※1)と業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければならない。(13条1項)(※4)
〇配慮の内容として、例えば、「妊婦検診の受診のための時間を確保したり、就業時間を短縮したりする」、「育児や介護等と両立可能な就業日・時間としたり、オンラインで業務を行うことができるようにしたりする」といった対応が考えられる。(※5)
(※1)妊娠、出産を含む。
(※2)政令で定める期間以上の期間行う業務委託のこと。更新により政令で定める期間以上行うこととなるものも含む。
(※3)特定業務委託事業者が取引を行う全ての特定受託事業者の育児介護等の事由を予め把握して配慮することまでを求めるものではない。
(※4)特定業務委託事業者は、継続的業務委託以外の業務委託について、特定受託事業者からの申出に応じて、特定受託事業者が育児介護等と業務を両立できるよう、必要な配慮をするよう努めなければならない。(13条2項)
(※5)具体的な配慮の考え方や対応の具体例については、本法律15条に基づき厚生労働大臣が定める指針において明確化する。
(注)この配慮義務では、特定業務委託事業者に対して、特定受託事業者の申出に応じて、申出の内容を検討し、可能な範囲で対応を講じることを求めるものであり、申出の内容を必ず実現することまでを求めるものではないことに留意が必要。
【ハラスメント対策に係る体制整備義務(14条)】
〇ハラスメントは、特定受託事業者の尊厳や人格を傷つける行為として許されず、これにより引き起こされる特定受託事業者の就業環境の悪化・心身の不調・事業活動の中断や撤退を防止することを目的とする規定。
〇特定業務委託事業者は、ハラスメント行為(※1)により特定受託事業者の就業環境を害することのないよう相談対応のための体制整備その他の必要な措置(※2)を講じなければならない。(14条1項)
〇特定業務委託事業者は、特定受託事業者がハラスメントに関する相談を行ったこと等を理由として不利益な取扱いをしてはならない。(14条2項)
(※1)セクシュアルハラスメント、妊娠・出産等に関するハラスメント、パワーハラスメント
(※2)具体的には、下図の①~③を想定。本法律15条に基づき厚生労働大臣が定める指針において明確化し、対応の具体例等を示す。
【中途解除等の事前予告義務(16条)】
〇一定期間継続する取引において、特定業務委託事業者からの契約の中途解除や不更新を特定受託事業者に予め知らせ、特定受託事業者が次の取引に円滑に移行できるようにすることを目的とする規定。
〇特定業務委託事業者は、継続的業務委託(※1)を中途解除したり、更新しないこととしようとする場合には、特定受託事業者に対し、少なくとも30日前までに、その旨を予告しなければならない。(16条1項)(※2)
〇予告の日から契約満了までの間に、特定受託事業者が契約の中途解除や不更新の理由の開示を請求した場合には、特定業務委託事業者は、これを開示しなければならない。(16条2項)(※3)
(※1)政令で定める期間以上の期間行う業務委託のこと。更新により政令で定める期間以上行うこととなるものも含む。
(※2)災害により業務委託の実施が困難になったため予告ができない場合や、特定受託事業者に契約不履行や不適切な行為があり業務委託を継続できない場合など、厚生労働省令で定める場合は予告を要しない。
(※3)理由を開示することにより第三者の利益を害するおそれがある場合など、厚生労働省令で定める場合は理由の開示を要しない。
【違反行為への対応等】
【フリーランスからの相談(フリーランス・トラブル110番)】
〇フリーランス・トラブル110番は、フリーランスと発注事業者等との取引上のトラブルについて、弁護士にワンストップで相談できる窓口として設置されている(令和2年11月~)。
〇特定受託事業者は、本法律の施行後、フリーランス・トラブル110番に法に関する相談を行い、アドバイスを受けることができるほか、必要に応じて、法所管省庁への法違反の申告(※1)についての案内を受けることが可能。
(※2、3)
(※1)フリーランス・トラブル110番を経由せず、直接法所管省庁の窓口に申告することも可能。
(※2)法の施行に当たってのフリーランス・トラブル110番の役割については、引き続き検討。
(※3)その他、本法律の適用とならない取引上のトラブルについての相談も、引き続き、フリーランス・トラブル110番において相談対応や和解あっせんを受けることが可能。
詳しくは下記参照先をご覧ください。